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掲載日:2023.10.13

9月30日(土)、人文学部開設30周年記念シンポジウム「新人文主義のフロンティア―「耕すこと」と「食べること」から考える人文学の可能性―」を開催しました。100名を超える参加者の皆さんとともに、「耕すこと」(農)と「食べること」(食)をキーワードとして、人文学の可能性について考えました。

藤原辰史さん(京都大学人文科学研究所・准教授)による基調講演「食と農の人文学―人間を深く考えるための人間中心主義批判―」では、「食」と「農」のあり方を規定する「食権力」に注目することを通じて、長期的で遅効的な暴力の歴史と現在が分析されました。その上で、そのような暴力に抗う「弱目的性」を帯びた試みの事例が紹介され、人文学もまた遅効的で弱目的的な営みであればこそ、「自然と人間」、「人間と人間」の関係を破壊しつつある現代の変化に対峙することができるはずだという希望と責任が示されました。

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小松かおりさん(北海学園大学人文学部英米文化学科・教授)による提題「アフリカの農から考える人文学」では、複数の作物と多くの雑草が共存し、作物と雑草の境目も曖昧で可変的なアフリカの混作の様子から、うまく「手を抜く」農のあり方が考察されました。さらに、世界各地のバナナ栽培文化を例に、農には「遊び」の楽しみがあり、その楽しみが地域の農民と住民の食料主権につながるのではないかという問題提起がなされました。

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郡司淳さん(北海学園大学人文学部日本文化学科・教授)の提題「食の日本近代史―「自分」を「主語」とした人文学の試み―」では、日本近代史における食をめぐる状況を一人称の視点から語り直すことが試みられました。その中でも、「生活程度を切り下げるのは何でもないが(...)親子諸共に飢えねばならぬ」(前田一『サラリマン物語』より)という論理矛盾を孕んだ一節に、都市化に伴う生/生活のリアリティが表現されているという指摘がとりわけ印象的でした。

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3人の基調講演と提題を受けて、来場者の皆さんを交えたディスカッションが行われました。日本および世界各地の食と農の状況についての具体的な話題から、現代社会で人文学が果たすべき役割に関する射程の大きな話題まで、さまざまな観点から活発な議論が交わされました。

シンポジウムの記録は、『年報 新人文学』第20号に掲載されます。以下のリンクより電子版にアクセスできますので、出版されましたらぜひご覧ください。

・北海学園大学人文学部の出版物>『年報 新人文学』